今後における地域改善対策について(意見具申)

今後における地域改善対策について(意見具申)

昭和61年12月11日
地域改善対策協議会

 

 昭和四十年同和対策審議会答申(以下「同対審答申」という。)が内閣総理大臣に提出されて以来二十一年余の月日が経過した。同対審答申を受けて昭和四十四年に同和対策事業特別措置法(以下「同対法」という。)が十年の限時法として制定施行されて以来、同法の三年間の延長、それに引き続く地域改善対策特別措置法(以下「地対法」という。)の制定施行と、これまで三度にわたり立法措置が講じられ、十八年間に及び地域改善対策が推進されてきた。その成果は、少なからぬものがあったと評価できる。

 そして、その成果に加うるに、この間の社会経済の発展もあり、同和地区の実態を始め、地域改善対策をめぐる現状は、同対審答申が当時前提としたものと比べ、大きく変わってきている。第一に、同和地区の実態が相当改善されたことであり、第二に、同対審答申では全く触れられていない新しい問題が生じていることである。

 今日、同和問題の解決を積極的に図ろうとする同対審答申の精神は受け継ぎつつも、同和問題の現状を踏まえ、同和問題の根本的解決のために、今後、真に必要なものは何かという原点に立ち返った基本的検討を行うべき時期が到来している。本協議会は、このような認識に立って、来年三月末で失効する地対法後の対策の在り方について審議し結論を得るに先立ち、本年一月、基本問題検討部会(以下「部会」という。)を設置し、同和問題解決に向けて、この際、基本的に検討しておかなければならない課題とその解決策及び地域改善対策のこれまでの実績と今後の課題について検討することをゆだねた。部会は、二月以降十三回にわたり精力的に審議を重ねた後、八月五日、本協議会総会に基本問題検討部会報告書(以下「報告書」という。)を提出した。本協議会は、部会から報告書の提出を受けた後、幅広く国民各層の批判を仰ぐため、報告書を公表するとともに報告書の内容を踏まえ、標記の件に関し審議を重ねてきた。報告書が公表されて以降、地方公共団体、民間運動団体、ジャーナリズム、一般国民等から報告書に対する様々な意見が表明された。また、本協議会の場においても、その審議の過程で地方公共団体の地域改善行政担当者の代表や民間で同和問題に取り組んできた有識者等から報告書の内容、地対法失効後の措置等に関し意見聴取を行った。

 本協議会においては、報告書の内容を踏まえ、これらの意見等も参考にしながら鋭意検討を続けてきた結果、この度、今後における地域改善対策について下記のとおり意見を具申することとした。政府におかれては、本協議会の意見を尊重し、同和問題の解決のため、所要の対策を一層強力に推進されるよう要望するものである。

1、地域改善対策の現状に関する基本的認識

 同対審答申を受けて昭和四十四年に同対法が制定施行されて以来、十八年間にわたり地域改善対策が積極的に推進されてきた。ちなみに、昭和四十四年度から昭和六十一年度の間における国の地域改善対策予算額を合計すれば、約二兆六、○○○億円に達する。また、地方公共団体においては、国の負担・補助を受けて実施する事業及び独自に実施する事業に国費を上回る額を投入して対策を実施してきている。

 これらの対策の推進により、同対審答申で指摘された同和地区の劣悪で低位な実態は、大きく改善をみた。生活環境の改善を始めとして、同和地区の生活実態の改善、向上が図られたことにより、現在では、同和地区と一般地域との格差は、平均的にみれば相当程度是正されたといえる。また、心理的差別についても、内外における人権尊重の風潮の高まり、各種の啓発施策及び同和教育の実施、実態面の劣悪さの改善等によりその解消が進んできている。

 同対審答申は、部落差別は、半封建的な身分的差別であり、これを分類すれば、言語や文字や行為を媒介として顕在化する心理的差別と、劣悪な生活環境等同和地区住民の生活実態に具現されている実態的差別に分けることができることを指摘した。

 今日、これらの差別の解消が進んできたことは、同和問題の解決にとって大きな前進であるといえる。

 反面、これまでの行政機関の姿勢や民間運動団体の行動形態等に起因する新しい諸教育は、同和問題に対する根強い批判を生み、同和問題の解決を困難にし、複雑にしている。

 これらの新しい諸問題は、同対審答申では全く触れられていないが、今後における同和問題の解決にとって、大きな障害であり、それらを克服することは同和問題の解決にとって極めて重要な課題である。

2、地域改善対策の今日的課題

(1) 今日的課題

 今日、同和地区における実態面の改善に比べて、心理的な差別の解消は、不十分な状況にある。  同和地区の実態が大幅に改善され、実態の劣悪性が差別的な偏見を生むという一般的な状況がなくなってきているにもかかわらず、差別意識の解消が必ずしも十分進んできていない背景としては、昔ながらの非合理な因習的な差別意識が、現在でも一部に根強く残されていることとともに、今日、差別意識の解消を阻害し、また新たな差別意識を生む様々な新しい要因が存在していることが挙げられる。近代民主主義社会においては、因習的な差別意識は、本来、時の経過とともに薄れゆく性質のものである。実態面の改善や効果的啓発は、その過程を大幅に早めることに貢献する。しかし、新しい要因による新たな意識は、その新しい要因が克服されなければ解消されることは困難である。

 新しい要因の第一は、行政の主体性の欠如である。現在、国及び地方公共団体は、民間運動団体の威圧的な態度に押し切られて、不適切な行政運営を行うという傾向が一部にみられる。このような行政機関としての主体性の欠如が、公平の観点からみて一部に合理性が疑われるような施策を実施してきた背景となってきた。また、周辺地域との一体性や一般対策との均衡を欠いた事業の実施は、新たに、「ねたみ意識」を各地で表面化させている。このような行政機関の姿勢は、国民の強い批判と不信感を招来している。

 第二は、同和関係者の自立、向上の精神のかん養の視点の軽視である。同和問題の解決のためには、同和関係者の自立、向上が達成されなければならないが、これまでの対策においては、同和関係者の自立、向上の精神のかん養という視点が軽視されてきたきらいがある。特に、個人給付的施策の安易な適用や、同和関係者を過度に優遇するような施策の実施は、むしろ同和関係者の自立、向上を阻害する面を持っているとともに、国民に不公平感を招来している。

 第三は、えせ同和行為の横行である。民間運動団体の行き過ぎた行動に由来する同和問題はこわい問題であり、避けた方が良いとの意識の発生は、この問題に対する新たな差別意識を生む要因となっているが、同時に、また、えせ同和行為の横行の背景となっている。えせ同和行為は、何らかの利権を得るため、同和問題を口実にして企業・行政機関等へ不当な圧力をかけるものであり、その行為自体が問題とされ、排除されるべき性格のものであるが、このような行為は、これまでなされてきた啓発の効果を一挙にくつがえし同和関係者や同和問題の解決に真剣に取り組んでいる民間運動団体に対する国民のイメージを損ね、ひいては、同和問題に対する誤った意識を植え付ける大きな原因となっている。行政機関は、えせ同和行為が横行しているという事態を深刻に受け止めるべきである。

 第四は、同和問題についての自由な意見の潜在化傾向である。同和問題について自由な意見交換ができる環境がないことは、差別意識の解消の促進を妨げている決定的な要因となっている。民間運動団体の行き過ぎた言動が、同和問題に関する自由な意見交換を阻害している大きな要因となっていることは否定できない。いわゆる確認・糾弾行為は、差別の不合理性についての社会的認識を高める効果があったことは否定できないが、被害者集団によって行われるものであり、行き過ぎて、被糾弾者の人権への配慮に欠けたものとなる可能性を本来持っている。また、何が差別かということを民間運動団体が主観点な立場から、悠意的に判断し、抗議行動の可能性をほのめかしつつ、さ細なことにも抗議することは、同和問題の言論について国民に警戒心を植え付け、この問題に対する意見の表明を抑制してしまっている。

 今後、心理的差別の解消を促進し、同和問題に対する国民の理解と協力を得ていくためには、これまで推進された啓発や人権擁護対策に加えて、以上のような諸要因を是正していくことが不可欠である。それ故、行政の主体性の確立、同和関係者の自立、向上の精神のかん養、えせ同和行為の横行の排除、同和問題について自由な意見交換のできる環境づくりは、同和問題解決のために成し遂げるべき極めて重要な今日的課題である。

(2) 今日的課題を達成するための方策

 今日的課題を達成していくためには、行政機関の姿勢や民間運動団体の在り方が極めて重要である。

 行政機関は、その基本姿勢として、常に主体性を保持し、き然として地域改善対策等の適正な執行を行わなければならない。そのためには、行政機関は、今日、改めて民間運動団体との関係について見直すことが必要である。国は、もちろん、率先して断固たる主体性を常に保持すべきであることは言うまでもないが、民間運動団体と身近に接触する機会の多い地方公共団体においては、その対応に腐心している状況もみられるので、そのような地方公共団体の主体性の確立については、国は、積極的な助言、指導を行うべきである。例えば、国が民間運動団体と行政機関との望ましい関係の在り方に関する具体的な基準や行政の主体性を確立するためのチェックポイントを明らかにすること等は有効な手段と考えられる。さらに、同和問題について行政職員の理解を十分深めることは、主体性の確立のためのいわば前提であり、そのための研修等の施策が一層拡充される必要がある。

 同和関係者の自立、向上の精神のかん養は、今後の啓発の重要な目標のひとつとして取り上げられる必要があり、そのための積極的な啓発活動が推進されなければならない。また、同和関係者の自立意欲の向上のための民間運動団体の取り組みに期待するところは大きい。

 えせ同和行為の排除のためには、関係行政機関等の緊密な連携と幅広い取り組みが必要である。企業・行政機関等が、不当な要求は断固として断り、また、不法な行為については、警察当局に通報する等厳格に対処することが必要となるが、そのような望ましい対応の在り方については、行政機関が積極的に啓発活動や行政指導を行うべきである。また、警察当局においても、えせ同和行為排除のための強力な対策を推進する必要がある。

 同和問題について自由な意見交換ができる環境をつくっていくためには、プライバシーの保護に配慮しつつ、行政機関が同和問題に関する情報、資料をできるだけ公開し、国民、ジャーナリズム等に積極的に提供していくことが重要である。また、差別事件は、司法機関や法務局等の人権擁護のための公的機関による中立公正な処理にゆだねることが法定手続きの保障等の基本的人権の尊重を重視する憲法の精神に沿ったものである。また、そうすることが、一見う遠のごとく見えても、結局は同和問題の解決に資することになるのであり、国は、その旨地方公共団体等を指導し、また啓発に努めるべきである。なお、差別事件の公的機関による処理を更に推進するため、人的資源の充実等現在の人権擁護行政の体制が更に強化、拡充されるべきである。

3、地域改善対策事業のこれまでの実績と今後の課題

(1) 地域改善対策事業のこれまでの実績

 地域改善対策事業として、昭和五十七年度から昭和六十年度までの間に、約七、五〇〇億円の国費が投じられた。昭和六十一年度の地域改善対策予算は、約二、一〇〇億円であるので、地対法の有効期間内の国費は、合計約九、六〇〇億円に達することになる。また、地域改善対策事業のうち、生活環境の整備等の物的事業については、地対法の有効期間内の国費は、約八、五〇〇億円に達する。地対法制定当時、同法の有効期間内に実施すべきものとして予定された事業量(国費)は、当時の価格で七、○○○億円程度であるので、量的には、十分、それに見合う国費が投入されてきたことになる。

 これまでの対策の成果として、同和地区の生活環境は、大きく改善されるとともに、教育や就労の面においても、若年層を中心に改善・向上がみられる。

 ちなみに、総務庁が、昨年十一月三十日現在で実施した「昭和六十年度地域啓発等実態把握」(以下「実態把握」という。)の結果によれば、

ア、同和関係者と一般住民との婚姻の増加がみられ、特に、三十歳未満の若年層では約六割が一般住民との婚姻であること。

イ、高校等への進学率が同対審答申当時と比べ飛躍的に向上しており、若年層ほど高等教育修了者の割合が高いこと。

ウ、一人当たりの居住室畳数、専用設備、接道等居住水準や居住環境は、面的事業の推進等により、現在では、全国的な水準とほぼ同様の水準にまで改善されていること。

エ、その他、常用雇用者の増加等がみられること

等が明らかになっている。

 一方、同和地区の生活実態面で、全国水準と比べまだ格差がある主な点としては、

ア、生活保護世帯を含めた住民税非課税世帯の割合が高いこと、

イ、不安就労者や小規模零細企業の割合が高いこと、

ウ、高校等への進学率になお若干の格差がある

こと等である。

 また、意識面においても、学校の授業、広報、研修会等により同和問題を知るに至った人々が四分の一となっており、同和教育や啓発活動の普及をうかがわせる結果となっている。今後とも特別対策が必要かどうかについては、同和地区内外の住民に格段の差が認められ、必要だと答える住民の割合が同和地区外では一割程度であるのに対し、同和地区内では約七割となっている。

 なお、農林水産省が昭和六十一年度に実施した全国同和地区農林漁業実態調査によれば、同和関係農家においては、農業用機械の普及・向上、これに伴う農業従事日数の減少、家畜飼養規模の拡大等に改善が見られた。反面、関係府県における一般農家に比べ、耕地面積は昭和五十年時と同じく三分の二程度と少なく、不安定兼業農業の割合は高く、しかも、農産物販売金額は全体的に低位状態にある等の格差のあること等が明らかになった。

(2) 地域改善対策事業の今後の課題

 地域改善対策が、これまで着実な成果を挙げてきた一方で、今後、達成されるべき課題も残されている。

 今後に残される課題の第一は、差別意識の解消の問題である。差別意識の解消は、現在十分な状況とは言い難く、依然、差別事件の発生がみられる。因習的な差別意識や新たな差別意識の解消を促進することは新たな差別意識を生む要因を取り除くとともに、人権尊重の立場でねばり強く啓発活動を展開し、差別を生み出している心理的土壌を変えていくことによってのみ可能となる。

 啓発活動は、今後における地域改善対策の重点課題であり、その在り方については、昭和五十九年六月の本協議会の意見具申及び本意見具申を十分踏まえた積極的な啓発活動の推進を強く要請するものである。

 なお、今後、啓発活動の推進に当たっては、同和問題の啓発に関する情報等が都道府県、市町村、民間企業、国民の各主体相互の間で迅速に伝達されるよう一層の工夫を行うことが望まれる。そのための一つの方法としては、国を始め、都道府県、市町村等が参画した公益法人を設立し、その法人が情報の迅速な伝達やえせ同和行為その他同和問題に関する相談活動並びに同和問題に関する調査研究及び研修等の事業を実施することが考えられる。

 また、広く国民の人権尊重の精神を高めていくためには、啓発活動の重要な一翼として、学校教育や社会教育の果たすべき役割は、今後とも大きい。なお、同和教育の推進に当たっては、児童生徒の発達段階に応じて無理なく行われるとともに、地域のニーズに即応した効果的な内容、方法で行われることが重要である。

 第二は、地域改善対策事業のうち、住宅地区改良事業等については、一部に事業の取組が遅れている地域がみられ、全国的にみるとその進捗状況に格差がみられることである。これらの物的事業については、地対法施行後新たに事業実施について要望が出されていることや用地取得に関する調整の難航等により当初計画どおりに整備が進んでいないこと等から昭和六十二年度以降の事業量も見込まれている。

 第三は、雇用、産業振興の分野において、これまで、職業の安定や産業の振興のための特別対策が講じられてきたが、実態把握の結果をみても、全国水準と比べれば、依然同和地区における不安定就労者や小規模零細企業の割合が高いことである。

4、今後の地域改善対策の在り方

(1) 行政の役割

 今後の地域改善対策の在り方を原点に立ち返って検討するに際しては、まず、同和問題解決のために果たすべき行政の役割を明確にすることが必要である。

 同和問題の解決のためには、同和関係者の自立、向上を阻害している諸要因の解消がなされなければならないが、そのためには、同和関係者自らその意欲を持ち、自主的な努力を行うことが不可欠である。行政の基本的な役割は、同和関係者の自主的な努力を支援し、その自立を促進することである。今後の地域改善対策の在り方は、この視点から見直さなければならない。同和関係者の自立を促す上からも、国民が人権尊重の視点から、国民的課題として差別意識の解消に取り組むよう国民に対し啓発を行うことは、行政の極めて重要な任務といえる。

 地域改善対策を推進するためには、国と地方公共団体は一致協力してこれにあたる必要がある。その場合、国は、事業実施の方針を明確に示す等指導的役割を果たすことが重要である。

(2) 特別の立法措置の必要性と基本的考え方

 地域改善対策について、これまで、特別の立法措置が講じられてきたのは、昭和五十六年十二月の同和対策協議会(以下「同対協」という。)の意見具申でも述べられているように、同和問題の解決のための施策について国民の代表である立法府の意思の表明を積極的に得ること、国及び地方公共団体の責務を明確化すること、法的裏打ちにより実施されてきた事業の継続性を担保する必要があること等の理由によるものであった。地対法は、地域改善対策事業の実施について、特別の財政措置として、ア、国庫負担・補助率の特例、イ、地方債の特例、ウ、地方債元利償還金の基準財政需要額への算入措置を講じている。

 したがって、地対法が失効すればこのような特別の財政措置がなくなり、事業を実施する地方公共団体の財政負担は増加せざるを得ないことになる。一方、同和地区を有する地方公共団体の中には、財政基盤がぜい弱な自治体もみられることから、事業の推進が困難となる面があることは否定できない。

 今後実施すべき事業については、これまでの対策の成果等を踏まえ、現行事業の原点に立ち返っての見直しを行い決められるべきであるが、今後とも必要な事業を実施していくためには、何らかの財政措置が必要であり、そのためには特別の立法措置が必要であろう。

 今後、法的措置を講ずるに当たっては、次の基本的考え方で臨むべきである。

① 今後の地域改善対策は、これまでの行政運営の反省と、現行事業の基本的な見直しの上に立脚したものであることを明確にし、幅広い国民の支持を得るためには、現行地対法の漫然とした延長をとるべきではなく、新規立法とすべきである。

② 地域改善対策は、永続的に講じられるべき性格のものではなく、迅速な事業の実施によって、できる限り早期に目的の達成が図られ、可及的速やかに一般対策へ全面的に移行されるべき性格のものであることを明らかにするため、限時法とすべきである。

③ 新規立法は、地域改善対策として推進すべき事業の円滑な実施を確保するための財政措置を中心に規定すべきである。

④地域改善対策として推進すべき事業の範囲は、現行地域改善対策事業のうち、なお一定期間、継続実施する必要がある事業とし、その具体的内容については、法令で定めるべきである。

⑤新規立法においては、対象地域の指定の要件や手続、同和関係者の定義等を明確にし、厳格な運用を行う必要がある。

 なお、新規立法に規定する物的事業については、法の有効期間内において、計画的な事業実施が図られるべきである。

(3) 地域改善対策事業の見直し

 地域改善対策は、これまで、「いわゆる一般法による施策だけでは解決できない事項や、一定期間内に特定目的を達成する必要がある事項」(昭和五十六年十二月十日、同対協意見具申)について特別の財政措置に裏付けられた特別対策を同和地区や同和関係者に対し講じてきた。それが同和地区の低位で劣悪な実態の早急な改善のためには効果的な手段と考えられたからである。

 一方国民に対する行政施策の公平な適用という原則から考えれば、できる限り一般対策の中で対応することが望ましい。地域改善対策といえども、結局は、国民の租税負担によって賄われることを考えれば、地域改善対策を著しく優遇して、一般対策と不均衡を生ずるようでは、容易に国民的合意は得難く、社会的公平を確保するゆえんでもないからである。

 したがって、現行の地域改善対策事業については、これまでの対策の成果として、同和地区の実態が改善され、一般地域との格差が相当程度是正されてきたこと等にかんがみ、基本的な見直しを行い、真に必要な事業に限定して、特別対策を実施すべきである。

 以上のような観点から、現行の各種事業については、関係省庁において速やかに見直しが行われるべきである。その際、具体的な基準とすべき考え方を示せば、次のとおりである。

① 現行事業は、可能な限り一般対策へ移行することを基本とすること。

② 既に事業目的を達成している事業や事業実施について一般的な二ーズの乏しい事業は廃止すること。

③ 一般対策と比べ過度に優遇した内容となっている事業については、廃止するか是正措置を講ずることにより、一般対策との均衡に十分配慮すること。

④ 個人給付的事業については、原則として廃止し、同和関係者の自立、向上に真に役立つものに限定すること。自立、向上に真に役立つものについても、段階的に一般対策へ移行できるよう検討すること。

⑤ 物的事業については、昭和六十二年度以降具体的な事業計画等が明らかでない事業等については、一般対策へ移行して、所要の事業を実施するか、廃止すること。

⑥ 相談員、指導員の設置等の人的事業についても、一般対策への移行を検討すること。

⑦ 啓発・人権相談事業については、今後とも積極的に推進すること。

 また、雇用、産業振興対策についても、上記の考え方に従い見直しを行うとともに、可能な限り、雇用促進、中小企業振興のための一般対策へ移行する。

 なお、住宅新築資金等貸付制度に関しては、関係省庁において、施策の在り方について様々な観点から見直しが行われる必要がある。

 また、現行地域改善対策事業の見直しについては、その趣旨を関係地方公共団体に対し周知徹底すべきである。

 さらに、地方公共団体が独自に実施している同和関係施策についても、上記の基準に照らして事業の見直しを行うことが適当と考えられるので、その旨、関係各省庁は地方公共団体を指導すべきである。

(4) 地域改善対策の実施の適正化のための具体的措置

 今後の対策の推進について幅広い国民的コンセンサスを得ていくためには、これまでの行政運営において生じてきた問題点を是正し、適正化のための具体的措置が講じられなければならない。この点については、昭和五十六年十二月の同対協の意見具申においても、同対法施行十三年の運用により生じてきた問題点の是正が指摘されたにもかかわらず、地対法施行後においても、この課題の達成は極めて不十分な状況となっていることは誠に遺感である。

 不適切な行政運営の事例としては、個人給付的事業の対象者の資格審査が民間運動団体任せとなっている例や公的施設等の運営が特定の民間運動団体に独占的に利用されている例があること、また、民間運動団体に補助金等を支出していながら、その適正な使用について指導・監査等を十分行っていない例がみられること等が挙げられる。このような問題点を一つ一つ是正していくことが、行政機関と民間運動団体との適切な関係を確立する上で重要である。

 さらに、税の問題や公営住宅等の一部にみられる著しい低家賃の実態は、現在の国民感情を考慮すれば国民の間に不公平感を招来し、新たな差別意識を生む要因のひとつともなっている。国税において、一部にみられるような特別な納税行動については、その是正につき行政機関の適切な指導が望まれる。同和地区の納税者について、一般の納税者と異なった配意をすることは、決して、同和問題の解決という精神に沿ったものとは言えない。また、地方税においては、かなりの地方公共団体で、同和関係者等に対する減免措置が講じられているが、このような措置についてもその内容の見直し、適正化を図ることが望まれる。また、地域改善対策として建設された公営住宅等については、低額所得者向けの施策住宅等の中においても、立地条件、建設年度、住戸規模等からみてもなお、著しく均衡を失した低家賃の実態が一部でみられることは問題であり、適正な家賃とするための指導が行われるべきである。

 同和教育については一般国民の中にかなり批判的意見がみられる。この背景としては、同和教育において、人権尊重の理念が徹底されていないために、一般国民の理解がなかなか進まないこととともに、一部に民間運動団体が教育の場に介入し、同和教育にゆがみをもたらしていることが考えられる。同和教育については、啓発活動の一貫として、今後とも推進していかなければならないが、その前提として、教育と政治・社会運動とを明確に区別し、教育の中立性の確立のための徹底的な指導を行うことが必要である。なお、その指導に当たっては、教育の中立性を確保する方策が明確に示されるべきである。

 また、地域改善行政に対して、行政のチェック機能が十分発揮されてこなかったことが、不適切な運営実態が長く是正されないまま放置されてきた要因となっている。その意味では、地域改善行政は、一般対策とは違った特別な行政分野とされてきた。地域改善行政の適正化を確実なものとしていくためには、行政の監察・監査、会計検査等の機能の活用を積極的に行っていくことも必要となろう。

 さらに、地域改善対策の実施の適正化を推進していく上で、地方公共団体の取組は極めて重要であるので、関係各省庁においては、地方公共団体に対する適切な助言、指導を行っていくべきである。