基本問題検討部会報告書

基本問題検討部会報告書

昭和61年8月5日

 地域改善対策協議会基本問題検討部会

目 次 

I、同和問題の現状に対する基本認識

1、同対審答申における同和問題の認職

 昭和40年8月11日、同和対策審議会(以下「同対審」という。)は、内閣総理大臣の諮問に応じて、同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本方策について答申を行った。この答申(以下「同対審答申」という。)は、同和問題の本質や同和地区の実態について認識を示した上で、同和対策の具体案として基本的方針及び具体的方策の提言を行った。すなわち、同対審答申は、同和問題について、「いわゆる同和問題とは、日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、なおいちじるしく基本的人権を侵害され、とくに、近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大な社会問題である。」と定義し、同和関係者が置かれた経済的・社会的・文化的に低位な状態の早急な改善を行政に促した。答申では、具体的に、人々の観念や意識のうちに潜在し、言語や文字や行為を媒介として顕在化する心理的差別と、劣悪な生活環境等に象徴される同和地区住民の生活実態に具現されている実態的差別とに分類し、相互に因果関係を保つこれら二つの領域の差別の解消を行政施策の課題として指摘した。

 この同対審答申は、その後の国及び地方公共団体の地域改善対策の内容や運営に大きな影響を与えるとともに、この答申で述べられた同和問題に対する認識は、これまで、この問題に対する一般的な認識として受け止められ、論じられてきた。当部会での検討は同対審答申の内容についてその適否を問題にすることを目的とするものではないが、当部会として、同和問題の現状についての基本的な見解を明らかにするに際しては、同対審答申にさかのぼって検討し、関係者はもちろん広く国民の十分な理解を得ることが妥当であり、かつ、今後の地域改善対策の方向を論ずる上でも必要なことであると考え、必要な限りにおいて同対審答申にも言及した。

2、同対審答申と今日の同和問題

 同対審答申が出されて21年が経過しようとしているが、同対審答申が前提とした当時の同和問題や同和地区の状況と現在の状況とでは、かなり様相が異なっている。第一は、同和地区の実態の改善が相当進んでいることである。第二は、同対審答申では全く触れられていない問題が新たに生じてきたことである。

(同和地区の実態等の改善)

 同和地区の生活環境や同和関係者の生活実態は、同対審答申当時と比べ著しく改善されてきた。これは、その後の経済社会の発展に伴う面も多いが、それにもましてこれまで積極的に行政施策が推進されてきた成果と受け止めることができる。同対審答申が出されて以降、昭和四十四年には同和対策事業特別措置法が制定施行され、また、同法の期限切れに伴い、昭和五十七年には現行の地域改善対策特別措置法が制定施行され、これらの法律に基づいて関係施策が実施されてきた。ちなみに、昭和44年度から昭和61年度の間における国の地域改善対策関係予算額を合計すれば約2兆6,OOO億円に達する。また、地方公共団体においては国の補助を受けて実施する事業及び独自に実施する事業に国費を上回る額を投入して施策を実施してきている。昭和59年6月の地域改善対策協議会(以下「地対協」という。)の意見具申において「同和地区住民の社会的経済的地位の向上を阻む諸要因の解消という目標に次第に近づいてきた」と述べているとおり、同和地区と一般地域との格差は、平均的な水準としては、相当程度是正されたといえる。

 また、心理的差別の領域においてもその解消が進みつつある。この背景には、実態面の劣悪さが改善されたことのほか、各種の啓発施策や同和教育の実施が寄与している。

 他方、同和地区の実態や心理的差・別の問題について、今日、まだ、課題が残されていることも事実である。特に、差別意識の解消については、実態面の改善に比べ遅れており、差別事象の発生が依然としてみられることは残念なことである。さらに、生活環境の改善等の事業のうち一部の事業については、地域改善対策特別措置法の有効期間内に当初予定されたものの実施が困難な状況もみられる。

(新たな課題)

 現在の同和問題を巡る状況をみると、同和問題に関する意見の潜在化傾向や行政としての主体性の欠如に起因する行政運営における不適切な事例の存在、あるいは同和問題を口実にして利権を得る、いわゆるえせ同和行為の横行等同対審答申では触れられていない問題がみられる。地対協の意見具申においては、今後、啓発活動の充実が重要であるとの視点から、啓発活動の条件整備として、①同和問題について自由な意見交換のできる環境づくりを行うこと、②行政が確固たる主体性を確保して事に当たるべきこと、③いわゆるえせ同和団体の横行を排除することを提言しているが、これらの課題は、単に効果的な啓発活動を行うために解決されるべき課題であるばかりでなく、これからの同和問題の根本的解決を考えていく上での基本的な課題でもある。

 特に、これまでの地域改善行政を顧みると、行政機関においては、国、地方を問わず、民間運動団体への対応に腐心している状況がみられ、また、民間運動団体間の激しい対立が行政の現場に持ち込まれ、その対応に苦慮するという例がみられる。こうした状況の背景としては、民間運動団体の行動形態自体にも問題があるが、同和問題に対する行政機関の姿勢が特に問題である。行政機関においては、ともすれば事なかれ主義に陥り、民間運動団体との妥協の上に地域改善行政を進めるという傾向がみられる。これは、国民共通の課題であるべき同和問題を国民から遊離したものとするばかりでなく、この問題に対する一般国民の拒絶反応を生む一因ともなっている。行政機関は、改めて自らの立場を十分自覚し、民間運動団体との関係の在り方を見直すべきである。

II 同和問題の解決と行政等の果たすべき役割

1、同和問題解決の基礎条件

 同和問題の解決のためには、同和関係者の自立、向上を阻害している要因の解消がなされねばならない。同和関係者の自立、向上を阻害してきた要因としては、同対審答申以来、劣悪な生活環境等と国民の間に幅広く残った差別意識が挙げられてきた。このうち、同和地区の実態については、大幅に改善をみてきているところであり、実態の劣悪性が差別的な偏見を生むという一般的な状況は、現在ではなくなりつつある。一方、同和地区や同和関係者に対する社会的偏見は、その解消が進みつつあるというものの、現在に至るまでも根強く残されてきた。その背景としては、昔ながらの非合理な偏見の残澤、同和地区内外の交流が余りないこと、運動団体の行き過ぎた活動等からくる同和関係者、同和地区に対する好ましくないイメージの形成等の諸要因があり、これが、因となり果となり相互に作用して、社会的偏見の解消が妨げられてきた。また、地域改善行政における行政の主体性の欠如や、えせ同和行為の横行の問題は、同和問題についての国民の理解を妨げる大きな要因となっている。

 同和関係者の自立、向上を阻害し、また、同和問題の国民的理解を妨げているとみられるこれらの諸要因の解消を促進するということが、同和問題解決の基礎条件である。

2、同和関係者の自立、向上のための努力

 同和関係者の自立、向上のためには、同和関係者自らが自立、向上の意欲を持ち、自主的な努力を行うことが不可欠である。同和関係者の自主的な努力がなければ、自立のための環境条件が整備されたとしても、結局、同和関係者の自立、向上はいつまでたっても達成されないことになる。

 同和関係者の自立、向上のための努力は、同和問題解決のための根本要件であるので、同和関係者の努力を期待するとともに、この点に関する民間運動団体の積極的なとりくみを望むものである。

3、行政の役割

 同和問題解決のために行政が果たすべき基本的な役割は、同和関係者の自主的な努力を支援し、その自立を促すことでなければならない。また、同和関係者の自立を促す上では、国民に対し啓発を行い、差別意識の解消を促進することは極めて重要な任務である。これまで進められてきた地域改善対策事業や地方公共団体が独自に実施してきた関係施策は、その効果が最終的には、同和関係者の自立に寄与するものでなければならないが、ともすれば、行政がこの目標を見失い、一部に、同和関係者に対して、合理性が疑問視される給付や特例が認められてきたことは、今日、十分見直されるべきである。

 このような同和問題解決のために果たすべき行政の役割の根底には、現代福祉国家の理念がある。同和地区の実態の早急な改善のため、地域改善対策事業を実施するという行政の機能は、福祉国家の理念に裏付けられた積極的な行政の作用と解すべきものである。

 また、地域改善対策事業の推進は国と地方公共団体の共同の責務であり、その円滑な実施のためには、国と地方公共団体が一致協力することが不可欠である。その場合、国は、事業運営の方針を明確に示す等指導的役割を果たすことが重要である。

4、国民の協力

 同和問題の解決は、究極的には国民一人一人の自覚に待たなければならないものである。地対協の意見具申でも、あるべからざる差別の解消は我々国民に課された使命であり、同和問題の最終的な解決のためには、すべての国民の理解と協力が絶対不可欠であることが指摘されたところである。国民の間に幅広く残された偏見が、同和関係者の自立、向上を妨げてきたことを考えれば、国民が自らの心から、あるいは周囲の人々の心から、この偏見を取り除くよう努めることは、国民の道義上の責務といえる。

5、民間運動団体に期待される役割

 民間運動団体のこれまでの活動が、同和問題に対する国民の関心を高め、同和問題への行政の積極的な対応を促す要因となってきたという点については、大いに評価されるべきである。  しかし、今日、民間運動団体にも様々な問題点が指摘されるようになった。現在、国民が同和問題に対するイメージや意識を形成する上で、民間運動団体の影響は大きく、民間運動団体が国民に対し誤解や不信感を与えるような行動形態をとり続けていれば、国民が同和問題を正しく理解することは困難となる。のみならず、民間運動団体の行動形態や民間運動団体間の激しい対立抗争が、国民の間に不安と反感を招来し、新たな差別意識を生む一因ともなる。

 民間運動団体については、批判は批判として素直に受け止めるという謙虚な姿勢が切に望まれる。民間運動団体にそういう姿勢がなければ、運動の国民的広がりをかち得ることはできないであろう。

 同和問題の解決のために民間運動団体に期待される役割は決して小さくない。今後においても、民間運動団体の同和関係者に対する影響力の大きさ等を考えれば、同和関係者の自立意欲の向上のための民間運動団体の積極的な活動は極めて重要である。また、同和問題についての国民の理解を深めるため、民間運動団体が国民の納得を得られるような方法で活動を行うことができれば、啓発推進の重要な一翼を担うことができよう。

III、同和問題の解決のための基本的課題

 当部会では、同和問題の現状に対する認識、地対協の意見具申の指摘の内容を踏まえて、同和問題解決に向けての基本的課題としての次の五つの課題を挙げ、これらの課題について問題点を是正し、適正化を図るための具体的方策について検討を行った。

(1) 同和問題について自由な意見交換のできる環境づくり (2) 同和問題に関する広報の在り方 (3) 行政の主体性の確立と行政運営の適正化 (4) えせ同和行為の排除 (5) 同和関係者の自立、向上の精神のかん養とこれまでの行政施策等

1、同和問題について自由な意見交換のできる環境づくり

(1) 自由な意見交換を阻害している要因

 現在、同和問題は、いわばタブー視されている傾向がある。同和問題に関し、様々な意見が自由に公表されにくいという状況にあることは、本問題についての国民的な理解を深める上で、大きな障害となっている。同和問題が、国民の開かれた討論の対象とならない限り、この問題の前進はあり得ない。

 同和問題に関する自由な意見交換を阻害している大きな要因は、民間運動団体の行き過ぎた言動にある。民間運動団体の確認・糾弾という激い行動形態が、国民に同和問題はこわい問題、面倒な問題であるとの意識を植え付け、同和問題に関する国民各層の批判や意見の公表を抑制してしまっている。行政機関においては、同和問題についての広報活動等に対する民間運動団体からの激しい抗議や確認・糾弾等への恐れから、自由な発言や広報活動を行っていないという傾向がみられる。また、新聞社、放送局、出版社等ジャーナリズムについても同様な傾向がみられ、同和問題に関する言論や報道に伴う負担やトラブル等を懸念して、同和問題に関する自由な立場からの批判や掘り下げた報道を行うことを躊躇している状況があるように思われる。

(2) 確認・糾弾行為についての考え方

 確認・糾弾行為は、それが始められた頃の時代環境、すなわち、同和関係者の大多数が悲惨な生活状況に置かれ、厳しい差別の対象とされながら、それを改善するための行政施策が全く不十分な状況の下では、同和関係者の人権に関する自覚や差別の不合理性についての社会的認識を高める役割を果たしたことは否定できないが、基本的人権の保障を柱とする現行憲法下において、同和地区や同和関係者に対する行政施策の充実が図られている現代では、確認・糾弾行為の存在意義については、当然見直されねばならないものであ。幅広い国民の理解を得るためには、民間運動団体の行動形態も、時代環境に即して変わることが求められる。

 確認・糾弾行為は、被害者集団による一種の自力救済的かつ私的裁判的行為であるから、被糾弾者が当然にこれに服すべき義務を有するものではない。この点に関し、糾弾権が存在するとの主張が一部にみられるが、他人に何らかの義務を課する法的な権利として認められるためには、法律に根拠を有するか、判例上確立されたものでなければならない。しかし、糾弾権の根拠となる法律がないことは言うまでもないが、判例においてもそのような権利は認められていない。したがって、確認・糾弾行為に応ずる法的義務はなく、その場に出るか否かはあくまでも本人の自由意思によるべきことは当然である。そして、確認・糾弾行為が被糾弾者の自由意思に基づいて行われた場合でも、それは、社会的に相当と認められる程度にとどめられるべきであり、それを超えるときは、違法な行為であり、私的制裁以外の何物でもない。

 また、確認・糾弾行為は、被害者集団によって行われるため、被糾弾者の自由意思に基づいて行われるものであっても、勢いの赴くまま、行き過ぎたものとなる可能性がある。さらに、糾弾会への出席が、民間運動団体の直接、間接の圧力によって余儀なくされる場合もあり、真に自由意思に基づくものかどうか疑わしい場合もあろう。

 差別行為のうち、侮辱する意図が明らかな場合は別としても、本来的には、何が差別かというのは、一義的かつ明確に判断することは難しいことである。民間運動団体が特定の主観的立場から、恣意的にその判断を行うことは、異なった意見を封ずる手段として利用され、結果として、異なった理論や思想を持つ人々の存在さえも許さないという独善的で閉鎖的な状況を招来しかねないことは、判例の指摘するところでもあり、同和問題の解決にとって著しい阻害要因となる。もとより、差別行為が法益を侵害するものであれば現行刑法上あるいは現行民法上に所要の処罰あるいは救済の規定があるわけであり、また、法務省の人権擁護機関等公的機関も整備されているのであるから、それらの公的制度や機関の中立公正な処理にゆだねるべきである。

(3) 自由な意見交換ができる環境をつくるための方策

 第一に、民間運動団体は、糾弾というような行き過ぎた行為を是正し、社会的に妥当と認められ、国民な納得が得られるような手段で活動を行うべきである。

 第二に、行政機関・企業等は、もちろん、同和問題について正しい理解を持つよう努めるべきことは当然であるが、無原則に民間運動団体の要求に応ずることで問題を解決しようという態度は望ましいものではない。同和問題の理解を深めることと団体の要求に応ずることとは本質的に別個のものであり、団体の不当な圧力に対しては、毅然とした態度で臨むことが望ましい。また、団体の行為が受忍範囲を超え、違法行為に当たると思われる場合には、警察の協力を求めることも必要となろう。

 第三に、行政機関は、同和問題について自由な意見交換のできる環境をつくるため、積極的な努力を行うべきである。具体的には、民間運動団体に対する当事者の対応についてのガイドラインや事例集を作成し、その周知徹底を図ること、国及び地方公共団体の地域改善担当部局その他関係行政機関を活用することによって相談指導体制を確立すること、人権擁護機関の活動を拡充すること等が必要となろう。

 最後に、同和問題について自由な意見交換ができるという環境は、究極的には、国民一人一人がこの問題を正しく受け止め、差別意識の解消がなされることを通じて形成されるべきものであることはいうまでもない。

2、同和問題に関する広報の在り方

 ジャーナリズ,ムが自由な立場で同和問題に関する意見や批判を公にし、掘り下げた報道を行うことは、同和問題の国民的理解を促進する上で極めて有効である。しかし、ジャーナリズムにおいては、同和問題については触れないことが賢明という固定観念が形成されているように見受けられる。この背景には、民間運動団体の行き過ぎた行動があるとみられるが、一方、行政機関がこれまで同和問題に関する情報や資料を十分提供してこなかったということにも原因があろう。また、ジャーナリズムにこの問題を避けて通ろうとする傾向があることは、ジャーナリズムの使命という観点からすれば、ジャーナリズム自体にも問題がないわけではない。

 今後、行政機関が同和問題に関する議論や情報、資料をできるだけ公開し、ジャーナリズムに提供していくことになれば、ジャーナリズムの固定観念も次第に払拭することができると思われる。まず、同和問題に関する情報が一番集積している行政機関がこれまでの姿勢を改めていくことが重要である。

3、行政の主体性の確立と行政運営の適正化

 行政機関が、確固たる主体性を堅持して、適正な行政運営を行うべきことは、行政一般に当然求められることであるが、特に地域改善行政においては、この姿勢が貫かれなければ、新たな差別感を行政機関自らが創り出すこととなり、同和問題の解決に逆行する結果となる。行政機関の厳然たる姿勢が基本とされねばならない。しかしながら、現在のところ、一部に、行政としての主体性の欠如から、不適切な行政運営の事例がみられることは、はなはだ遺憾である。例えば、民間運動団体に補助金等を支出していながら、その適正な執行について十分な監督を実施していない例があること、個人給付的施策の対象者の資格審査が民間運動団体任せとなっており行政機関が資格審査を十分行っていない例や団体に加入していない同和関係者の施策の適用が結果として排除されるという例があること、公的施設の運営が特定の民間運動団体に独占的に利用されている例がみられること、各種の相談員、指導員の人選が民間運動団体任せになっている例があること等である。また、地域改善行政の運営に不適切な実態がみられながら、従来、国及び地方公共団体の監査、検査の機能が十分発揮されてこなかったということは、それ自体、行政としての主体性の欠如を示すものである。

(1) 行政の主体性の欠如、不適切な行政運営の原因

 行政としての主体性が確立されず、不適切な行政運営の実態がみられる原因としては、まず、行政職員が民間運動団体の威圧的な態度を恐れるとともに、激しい確認・糾弾や暴力行為、脅迫を受けるのではないかという不安を持っていることが考えられる。また、行政職員の間にこれまでの経緯等から「あきらめ主義」や「事なかれ主義」があり、地域改善行政を特別視する傾向があること、同和問題についての行政職員の理解や認識が十分ではないことも原因となっていよう。さらに、「対象地域」、「同和関係者」等地域改善行政における基礎的な概念の定義が必ずしも具体的に明らかにされていないことも、行政機関の主体的な意思決定を困難にしている大きな要因である。

(2) 適正化のための方策

 第一に、行政機関においては、民間運動団体との関係について見直しを行うことが必要である。例えば、民間運動団体と行政との望ましい関係の在り方の基準や行政としての主体性を確立するためのチェックポイントを明らかにすることは、今後の行政運営の適正化にとって有効なものとなろう。

 第二に、地方公共団体における地域改善行政の不適切な運営を是正し、適正化を図っていくためには、国は都道府県に対して、都道府県は市町村に対して適切な助言、指導等を積極的に行っていくことが必要である。

 第三に、「対象地域」、「同和関係者」、「同和団体」という行政運営の基礎的概念を整理し、具体的にその定義を明らかにし、行政運営の明確化に努めるべきである。

 第四に、地域改善行政の運営に当たっては、事業の内容や目標、予算等を広く住民に公開し、開かれた行政運営に努めていくことが必要である。

 このほか、同和問題についての行政職員の理解を十分深めていくべきことや行政の監査、検査の機能を積極的に活用し、内部的なチェックを行っていくこと等も重要である。
4、えせ同和行為の排除

 いわゆるえせ同和団体やえせ同和行為の横行は、今日、重大な社会問題であり、また、同和問題の国民的理解を妨げる大きな要因である。えせ同和行為とは、何らかの利権を得るため同和問題を口実にして企業・行政機関等へ不当な圧力をかける問題行為である。一昨年の地対協意見具申では、えせ同和団体の排除が指摘されたところであるが、えせ同和行為の中には、既存の民間運動団体の構成員によって行われるものもあり、排除の対象としては、それも含めて、えせ同和団体ではなく、えせ同和行為としていくべきである。

 えせ同和行為が横行する原因としては、同和問題はこわい問題であるという意識が企業・行政機関等にあり、不当な要求でも安易に金銭等で解決しようという体質があること等が挙げられる。また、「同和は金になる」という風潮が一部にみられることや地域改善行政におけるあいまいな運用もえせ同和行為横行の背景となっている。えせ同和行為の横行を排除するための具体的方策としては、①企業・行政機関等においては団体からの不当な要求については断固として断り,また、不法行為については、警察当局に通報する等、厳格な対処で臨む姿勢が必要であること、②民間運動団体については、えせ同和行為排除のための自律機能や自浄能力を高めること、③行政機関としては、企業・行政機関等の望ましい対応について積極的な啓発活動を展開すること、また、不法行為に対しては的確な警察措置が採られている現実を明らかにすることも重要である。

5、同和関係者の自立、向上の精神のかん養とこれまでの行政施策等

 同和関係者の自立、向上の精神のかん養が同和問題の解決の基礎条件であることは、既に述べたが、現在の行政施策の内容や運用をみると、必ずしも同和関係者の自立という視点が徹底されていない面がみられるので、このような視点からこれまでの行政施策等を再評価してみる必要がある。

(1) 同和関係者の自立、向上という視点からの行政施策等の評価

 行政施策については、同和関係者の生活水準や生産水準を高め、生活の自立を促すという効果を持った反面、同和関係者の自立意欲を阻害している要素も多分にある。個人給付的施策の安易な適用や一般低所得者対策等と均衡を失するような施策の存在は、結果として、同和関係者の自立意欲を阻害する一因ともなっている。自分が同和関係者であれば、いつまでも特別な施策の対象者になるのだという意識が醸成されれば、同和関係者の自立性の基盤はいつまでたっても形成されないことになる。のみならず、経済的に豊かであるのに同和関係者だからという理由で特別な給付が受けられるということは、新たな差別感を生む要素となるおそれがあることにも十分配慮すべきである。

 こうした観点からみるとき、単に個人給付的施策ばかりでなく、一部にみられる特別な納税行動や税の減免制度、低額所得者向けの施策住宅等の中においても、立地条件、建設年度、住戸規模等からみて、なお、著 しく均衡を失した低家賃の実態があることも問題である。

 また、民間運動団体については、これまでの活動が構成員に誇りを自覚させるというプラスの効果を持った反面、差別又はそれに対する補償を過度に強調することは、同和関係者の自立、向上精神のかん養にとって阻害要因となっている面もある。さらに、民間運動団体がその強硬な態度により、個別施策の実施やその適用を左右してきたことは、結果として、同和関係者の行政への依存体質を強めてきた面もあることを反省されなければならない。

(2) 改善方策

 個人給付的施策については、同和地区の実態の改善が進み、社会福祉等の一般対策も整備されているのであるから、原則として廃止し、一般対策の中で対応する方向で検討すべきであり、なお、例外的に認められるべき個人給付的施策としては、自立の促進に役立つことが明白であるもの等真に必要なものに限定するとともに、対象者の資格の厳正な認定を行う必要がある。さらに必要に応じ所得制限を導入する等により、施策の安易な適用を排除すべきである。その他、税等の関連制度においても同和関係者の自立意欲を阻害する不合理な特例は廃止すべきである。

 一方、同和関係者が自立し易い環境をつくるという点では、もちろん、国民に対し啓発を行い、差別意識の解消を促進することは極めて重要な課題であり、今後とも積極的に推進しなければならない。

IV、地域改善対策事業のこれまでの実績と今後の課題

1、地域改善対策事業のこれまでの実績

(1) 地域改善対策事業の執行状況

 地域改善対策事業のこれまでの実績について、まず、事業の執行額についてみると、昭和五十七年度から昭和六十年度までの間に、地域改善対策事業として、国費だけで約七、五〇〇億円が投じられた。昭和六十一年度の地域改善対策予算は、約二、一〇〇億円であるので、地域改善対策特別措置法の有効期間における事業量(国費)は、合計約九、六〇〇億円に達することになる。地域改善対策事業のうち、生活環境の整備等の物的事業(建設省、厚生省、農林水産省、文部省、自治省)については、昭和五十七年度から昭和六十年度までの執行額(国費)が約六、七〇〇億円、昭和六十一年度の予算額が約一、七〇〇億円であり、同法の有効期間における事業量(国量)は、約八、四〇〇億円となる。地域改善対策特別措置法制定当時同法の有効期間内に実施すべきものとして予定された事業量(国費)は、当時の価格で七、〇〇〇億円程度であったので、量的にみれば、予定された事業量に十分見合う国費が投じられてきたことになる。

(2) 地域改善対策事業のこれまでの主な実績

 地域改善対策事業として、昭和五十七年度から昭和六十一年度の間に約一兆円近い国費が投じられたことにより、同和地区の生活環境や同和関係者の生活実態の改善は着実に進められてきたが、各分野における地域改善対策事業の主な実績をみると次のとおりである。

 (生活環境の改善、社会福祉の増進等のための事業)

 住環境の整備・改善を図るため、住宅地区改良事業、小集落地区改良事業等の面的整備事業が実施され、不良住宅の除去、改良住宅の建設等の総合的な整備が進められてきた。具体的には、住宅地区改良事業等が昭和五十七年度から昭和六十年度の間に住環境の劣悪な四一五地区で実施され、一四七地区で事業が完了しており、さらに、昭和六十一年度においては約一〇〇地区での事業の完了が見込まれている。地域改善対策特別措置法制定以前に実施された事業と合わせると、昭和六十年度までに約八〇〇地区で事業が実施され、約五三〇地区で事業が完了している。また、住宅の建設等も進み、昭和五十七年度から昭和六十年度の間において、公営住宅の建設戸数は四、八九〇戸、持家の取得等のための資金を貸し付ける住宅新築資金等貸付事業の貸付件数は約三三、五〇〇件となっている。さらに、下水道事業、公園事業、街路事業等の実施により、根幹的な公共施設の整備等も進められ、例えば、昭和五十七年度から昭和六十年度の間に下水道事業が三〇六か所、公園事業が一九三か所で実施されている。このほか、同和地区の環境整備を図るため、地方改善施設整備事業が実施され、昭和五十七年度から昭和六十年度までに、例えば、地区道路四、七五八か所、下水排水路一、四一六か所で整備が進められた。昭和五十六年度以前に実施された事業を合わせると地区道路三、二五五か所、下水排水路五、四九〇か所となっている。

 また、同和地区において生活相談事業や保健衛生事業等の実施の拠点となる隣保館は、昭和五十七年度から昭和六十年度の間に八三館整備され、それ以前に整備されたものと合計すると一、〇二九館となる。隣保館の整備等により、同和関係者の生活上の二ーズに応じた各種の事業が実施され、同和関係者の生活の改善、向上に寄与してきている。このほか、児童の健全育成のため保育所・児童館の整備、妊婦健康診査及び保健衛生に関する知識の普及等の事業は、社会保障施策の充実とあいまって地域の保健・福祉の向上に貢献してきている。

 (産業の振興のための事業)

 農林水産業の振興については、土地基盤等生産基盤の整備や近代化施設の整備等が進められてきた。具体的には、昭和五十七年度から昭和六十年度の間に、かんがい排水による受益面積が約七、五〇〇㎞、農道整備が約一、七五〇㎞となっている。この結果、同和地区における農林水産業の生産性の向上、農林漁業経営の安定化が図られてきた。例えば、土地条件等の制約を克服して、集約的な園芸や畜産、水産養殖等施設型経営への移行や周辺農漁家との連携による協業組織化が進み、地域全体として農漁業に取り組む事例が見られる。

 また、産業の振興については、経済力の培養等を図るため、小規模事業者に対する相談・指導を行う経営改善普及事業、新商品・新技術の開発、人材育成、情報収集等の経営資源の充実策及び事業協同組合等の組織化を推進するとともに、企業経営の近代化・合理化を促進するための高度化資金融資制度等の各事業が、これまで実施されてきた。

 (職業安定のための事業)

 同和関係者の雇用の促進と職業の安定を図るため、職業訓練等就業能力の開発、常用労働者として就職する同和関係者に対する資金の貸付、事業主に対する助成金の支給等の援護措置、就職差別の解消のための事業主に対する指導・啓発等の各事業がこれまで実施されてきた。ちなみに、就職資金の貸付実績は、昭和五十七年度から昭和六十年度の間において、五一、三九〇件となっている。

 (教育の充実のための事業)

 学校教育に関しては、経済的理由によって就学が困難な同和関係者の子弟に対する進学奨励事業の実施等により、同和地区の高校進学率は昭和五十年代に入って、八十七%~八十九%の水準で推移しており、一般地域との格差も四%~七%となっている。高等学校等進学奨励事業の対象者は、昭和五十七年度から昭和六十年度の間で、国公立、私大合わせて延べ約十三万人に達している。また、大学への進学率についても、まだ格差はあるものの、徐々に向上してきている。さらに、教育推進地域の指定等の事業の実施により、地域ぐるみの同和教育の推進やその充実が図られてきた。

 また、社会教育活動の実施により、学習機会の拡大等地域の教育水準の向上に寄与してきて おり、例えば、昭和五十七年度から昭和六十年度の間に約一、〇〇〇か所の集会所において、約三、九〇〇件の集会所指導事業が行われた。

 (人権擁護活動の強化のための事業)

 啓発活動は、その効果がすぐ把握できるという性格のものではなく、本来粘り強く実施されねばならないものであり、また、心理的差別の解消の促進が地域改善行政の重点課題となってきていることから、その充実強化が図られている。啓発活動としては、同和問題に関する講演会、研修会の開催、テレビ、ラジオ、新聞等による啓発、地方公共団体職員に対する指導者養成の研修、同和啓発映画の製作等が行われてきている。また、人権相談事業については、同和地区を有する市町村における特設人権相談所の開設等地道な活動が続けられている。この結果、差別意識の解消はある程度進んできている。

2、同和地区の実態及び同和問題に関する意識の現状

 総務庁は、同和問題に関する同和地区内外住民の意識の状況及び同和関係者の生活実態を把握するため、昭和六十年十一月三十日現在で「昭和六十年度地域啓発等実態把握」(以下「実態把握」という。)を実施した。その中間報告によれば、以下のとおりである。

(同和地区の実態)

 同和地区の生活実態面において、その改善・向上が認められる主な点としては次のようなものがあった。

① 婚姻の状況をみると、「夫婦とも地区の生まれ」の夫婦が同対審答申当時と比べると明らかに減少している(昭和三十八年同和地区精密調査八〇%→実態把握六六%)。特に、若年層ほど一般住民との結婚は増加しており、夫の年齢階層が三十歳未満の夫婦では、「夫婦とも地区生まれ」の割合は三六%となっており、六割強の夫婦は一般住民と結婚している。

② 高校等への進学率は飛躍的に向上してきた(昭和三十八年三〇%↓実態把握八八%(転出者は含まない。))。また、最終学歴をみると、全体では、初等教育修了者の割合は、全国水準と比べて高いが、若年層ほど大学、短大等の高等教育終了者の割合は増えてきている。

③ 同和地区の生活環境は極めて劣悪な状態にあるとされ、道路等が一般に未整備で、火災防止危険等の点からも改善の余地があることが同対審答申でも指摘されたが、住宅の敷地に接している道路(接道)の幅員をみると、現在では、面的事業の推進等により、全国的な水準とほぼ同様の水準にまで改善されている。

④ 住居の状況をみると同対審答申当時は、大都市における一人当り居住室畳数等において全国水準より明らかに劣っている状況がみられたが、その後の推進等により、現在では、全国水準とほぼ格差のない水準まで大幅に改善されている。また、住居の専用設備についても、共同便所はほとんどなくなっており、また、大部分の世帯で専用の浴室を持っている。

⑤ 就労の状況をみると、家族従業者が減少する一方で、常用雇用者が増加する等徐々にではあるが改善されてきており、また、管理的職業等に従事する者の割合が少しずつ増えてきている。

⑥ 産業の状況をみると、全国水 準と比べいまだ事業規模の零細性は強いものの、同和地区における零細企業(従業者一~四人規模)の割合が減少する等徐々にではあるが改善をみている。

 他方、同和地区の生活実態面において、全国水準と比べまだ格差がある点として次のようなものがあった。

① 同和地区における生活保護世帯を含めた住民税非課税世帯の割合は、全国水準と比べて十ポイント程度高い。

② 同和地区においても雇用者の増加という傾向がみられるが、全国水準と比較すると、常用雇用者の割合は少なく、臨時雇用日雇等の不安定就労者の割合が高い傾向にある。また、勤務先の企業規模をみると、一〇〇人未満の小規模企業の割合が高い。

③ 学齢十五歳の者の進学状況(転出者は含まない。)をみると、高校・高専への進学率(九四%)と比べるとなお若干の格差がある。

(同和問題に関する意識)

 同和問題に関する意識の状況について実態把握結果に表われた主な特徴としては次のような事項がある。

① 同和地区外の住民のうち八割を超える住民が同和問題を知っており、そのきっかけとして、四分の一の人々が学校の授業、テレビ・ラジオ、研修会等を挙げており、啓発活動が普及してきていることがうかがえよう。

② 同和地区の起源については、同和地区内住民の七割を超える人々が、また、同和地区外住民の約六割の人々が政治起源説を挙げており、啓発活動の成果がうかがわれる。一方、一割弱の同和地区外住民が人種起源説を挙げており、地域ブロック別にみると、関東、中部においてその割合が高い。

③ 同和地区については、一般にやや好ましくないイメージで受けとられており、特に、閉鎖的であるというイメージが強い。地域ブロック別にみると、閉鎖的というイメージは、関東、中部で強い。

④ 同和地区の人との結婚について、同和地区外住民の約二割の人々が、家族や親せきの意向を優先するとしており、また、親が反対したら結婚しないとする人々が三割を超えている。

⑤ 同和地区の改善について、十年前と比較して、同和地区内住民のほとんどが環境が良くなったとしており、また、五~六割の住民は、生活や仕事の状況が良くなったと評価している。

⑥ 今後とも特別対策が必要かどうかについては、同和地区内外の住民に格段の差が認められ、必要だと答える住民の割合が同和地区外では一割程度であるのに対し、同和地区内では約七割となっている。

⑦ 同和教育の実施について、同和地区外住民の多くが消極的な意識を持っており、現在の同和教育の在り方について十分検討すべき余地のあることが示唆されている。

3、地域改善対策事業の今後の主な課題

 地域改善対策事業は、これまで着実な成果を挙げてきた一方で、今後に残される課題もある。主な課題を整理すれば次のとおりである。なお、今後の事業推進の前提として、IIIで指摘した行政の主体性の確立、同和関係者の自立、向上の精神のかん養という視点からの見直し等の適正化対策が講じられねばならないことは当然である。

① 差別意識の解消は、これからの地域改善行政の重点課題として、一昨年の地対協の意見具申の趣旨を十分踏まえて、その促進のための啓発活動を積極的に講じていく必要がある。その際、配慮すべき事項として、次の諸点について改めて強調しておく。

(ア) 同和地区は閉鎖的であるという一般住民のイメージを解消するため、地域ぐるみの啓発活動の実施等同和地区内外住民の交流を促進し相互の理解を深めるよう努力すること。

(イ) 同和教育については一般住民の批判的な意見も多いが、この背景には、地域によっては民間運動団体が教育の場に介入し、同和教育にゆがみをもたらしていることや同和問題についての住民の理解が十分でないことが考えられる。同和教育の推進に当っては、住民の理解と協力を得るよう努めるとともに、教育と政治・社会運動との関係を明確に区別して、教育の中立性が守られるよう留意し、行政機関は毅然たる姿勢で臨むこと。

(ウ) 地対協の意見具申でも指摘されているとおり、同和問題は国民一人一人が主体的に取り組むことによって解決が可能となるのであるが、行政においては、国民が主体となるための条件の整備を行わなければならないこと。そのためには、国、都道府県、市町村はそれぞれの立場で啓発活動を推進する必要があるが、その場合、国のリーダーシップは重要である。また、地対協の意見具申で指摘された国が行うべき啓発活動についても、より効果的に実施するための工夫が望まれる。国においては、同和問題の啓発に関し、明白な方針を示すとともに、その方針等が都道府県、市町村、さらには民間企業や国民に迅速に伝達されるよう一層の工夫を行う必要がある。そのための一つの方法として、国、都道府県、市町村、民間企業等が参画した公益法人を設立し、その法人が国の啓発の指針等の情報を迅速に普及させるなどにより啓発活動を行うこと、えせ同和行為その他同和問題に関する相談活動及び同和問題に関する調査研究等の事業を実施することが考えられよう。

(エ) 啓発活動の充実のため、大学等の高等教育においても、同和問題を含め人権意識の高揚のための特別の配慮が必要であること。

(オ) 今後、効果的な啓発活動を展開していくためには、啓発内容の質的側面、地域改善対策事業未実施地域における啓発活動の在り方等についての検討が必要となること。

② 地域改善対策事業のうち、住宅地区改良事業、地方改善施設整備事業等については、一部に事業の取り組みが遅れている地域がある等全国的にみるとその進捗状況に格差がみられる。また、これらの物的事業については、(ア)当初予定されたもののほかに、地域改善対策特別措置法施行後新たに追加的な事業実施についての要望が出されていること、(イ)用地費等の値上がり、事業計画の変更等により事業量が増加していること、(ウ) 用地取得に関して地元の調整が難航している等の理由により、当初計画どおりに整備が進んでいないこと等から昭和六十二年度以降に持ち越される事業量が見込まれている。昭和六十二年度以降の事業量については、現在、事業所管省庁において精査しているところであり、現時点では、確定できる段階にはないが、真に必要な事業については、地域改善対策特別措置法失効後においても実施していく必要がある。なお、就労、産業の分野について、同和関係者の自立意欲の向上等の観点からの施策の見直しを行った上で、同和関係者の自助努力を前提としつつ、同和地区における産業の振興、職業の安定を図る必要があると考える。 

V、今後の地域改善行政を考える上での基本的問題点

1、今後の地域改善行政に対する基本的考え方

 地域改善対策特別措置法失効後においても真に必要な施策は実施されるべきであると考えるが、今後の対策の推進に当たっては、次の前提条件が実現されねばならない。

① これまでの地域改善行政の反省に立脚し、行政の主体性の確立や同和関係者の自立、向上の精神のかん養という視点からの見直し等適正化のための措置が十分講じられること。

② 現行の施策については、言わば既得権益化することなく、同和地区の実態の改善に応じた施策の見直しが行われ、今後の施策の内容が真に必要なものに限定されること。  また、事業の推進については、国民の理解と協力を得ることが絶対不可欠であるが、この前提条件が実現されなければ、国民の理解と協力を得ることは到底できないであろう。  地域改善対策特別措置法の失効後の措置の在り方については、法的措置の要否も含めて、いずれ、地域改善対策協議会において審議され、同協議会としての結論が出される予定であるが、当部会では、その審議の参考に供するため、地域改善対策特別措置法が失効した場合の影響について言及しておく。

(法失効の影響)

 地域改善対策特別措置法失効後の昭和六十二年度以降において、これまでのような特別措置を講ずることなく、現在の地域改善対策事業のうち所要の事業を実施していくことになれば、その実施は次のような方法によることになる。

① 一般対策を有する事業については、一般対策の事業として実施する。 ② 地域改善対策固有の事業であって、一般対策がない事業については、予算措置として実施する。

 地域改善対策特別措置法失効後このような形で事業を実施することになった場合、同法失効の制度的な影響は、次のように整理される。

① 地域改善対策特別措置法は、地域改善対策事業の実施について、特別の財政措置として、(ア)国庫負担・補助率のかさ上げ、(イ)地方債の特例(事業費のうち国庫負担・補助を除く部分に対する起債の充当率が一〇〇%であること。)、(ウ)地方債元利償還金(自治大臣が指定するものに限る。)の八割の地方交付税基準財政需要額への算入措置を講じているが、同法が失効した場合、この特例の財政措置がなくなることになる。

② 具体的には、(ア)一般対策として法律に基づく国庫負担・補助がある事業(一般対策と国庫負担・補助率が同じ地域改善対策事業は除く。)については国庫負担・補助率が一般対策の国庫負担・補助率に戻ること(例・保育所整備事業2/3→1/2、造林事業2/3→3/10、消防施設等整備事業2/3→1/3)、(イ)地方債の起債が一般の事業債の枠及び充当率に戻ること(例・住宅地区改良事業八五%(充当率)、簡易水道事業九〇%(充当率)、農業基盤整備事業(起債なし)、(ウ)地方交付税算入措置がなくなることである。また、本来、予算措置に基づく事業については、補助率等が各年度の予算で決められることになる(例・地方改善施設設備整備事業、集会所施設・設備整備事業)。

 地域改善対策特別措置法が失効し、現行の特別な財政措置がない下で事業を実施することになれば、事業を実施する地方公共団体の財政負担は増加せざるを得ないことになる。

 一方、同和地区を有する地方公共団体の中には、財政基盤がぜい弱な自治体もみられることから、事業の推進が困難となる面があることは否定できない。

2、地域改善対策と一般対策との関係

 現行の地域改善対策事業は、地域改善対策特別措置法施行令第一条において、四四号にわたって規定され、事業の実施について特別の財政措置が講じられているが、これは、同法立案の指針となった同和対策協議会の昭和五十六年十二月十日の意見具申にも述べられているとおり、「いわゆる一般法による施策だけでは解決できない事項や、一定期間内に特定目的を達成する必要がある事項」として定められたものである。このように、同和地区について特別対策が講じられているのは、同和関係者が国民の間に幅広く残る差別的な偏見のゆえに、生活の様々な分野でその向上が阻まれてきたという問題の特殊性にかんがみ、その早急な改善に努めるための効果的な手段として、各分野の施策をまとめ、特別な措置を講ずるというやり方をとっているものである。

 一方、同和地区の実態については、これまでの事業の推進等により、相当改善をみているところであるので、仮に、今後特別対策を一定期間継続するとした場合、いかなる施策を特別対策として実施し、いかなる施策を一般対策として実施するか、そして両者の関係については、次のような考え方で臨むべきである。

① 国民に対する行政施策の公平な適用という原則に照らせば、できる限り、一般対策の中で対応するということを基本とし、特別対策として実施すべき施策は、真に必要なものに限定すべきであり、従来からそのような方針で進められてきたところである。同和地区の実態の改善状況からみても、これまでの方針を変える理由はなく、現行の地域改善対策事業の範囲を広げることがあってはならない。

② 地域改善対策事業といえども結局は国民の租税負担によって賄われることになるのであるから、地域改善対策を著しく優遇して、一般対策と不均衡を生ずるようでは、容易に国民的合意を得難く、社会的公平を確保するゆえんでもない。したがって、現行の地域改善対策事業を厳格に見直し、現状においては、一般対策に移行した方が適当なものは移し、もはや必要性がなくなったものは廃止すべきであり、地域改善対策と一般対策との均衡に十分配慮すべきである。

③ 個人給付的施策については、新たな不公平感を生む要素ともなり得るので、原則として、一般の福祉対策等の中で対応すべきである。特に、地方公共団体は独自に各種の個人給付的施策を実施しているが、これらの施策の中には、その合理性が疑問視されるものがあり、見直しを行うべきである。また、その見直しに当たっては、国の適切な助言、指導が必要となろう。

3、いわゆる地区指定の事実上の解除の実施

 仮に、今後何らかの特別の法的措置がとられることになった場合においても、事業が終了し事業を実施する必要性がなくなった同和地区については、住民の合意に基づき、事実上の問題として、いわゆる地区指定を解除することは、差別意識の解消を促進する観点からも望ましい。その場合においては、いわゆる地区指定も法律上の指定とし、解除も法的に明白に行うこととすることも検討に値しよう。

4、差別行為の法規制問題

 差別事象の発生が依然としてみられることから、現在の啓発活動、人権擁護機関の活動及び現刑法の名誉殿損等の処罰規定には限界があるとして、悪質な差別行為について新たな法規制を導入すべきだとの主張が一部にみられる。

 また、大阪府においては、昭和六十年三月、「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」が制定されたが、この条例では、興信所等の行う同和地区出身者か否か等に関する身元調査活動について興信所等の自主規制や行政処分を前提としつつも、行政処分に違反した悪質な業者に対しては、最終的に刑罰を課する内容となっている。  差別行為は、もちろん不当であり、悪質な差別行為を新たな法律で規制しようという考え方も心情論としては理解できないわけではないが、政策論、法律論としては、次のような問題点があり、差別行為に対する新たな法規制の導入には賛成し難い。

① 差別を根絶するためには、差別を生み出している心理的土壌を改めていくことが必要である。これは、啓発によって可能となるのであって、刑罰によって達成されるものではないのみならず、刑罰を課することは差別意識の潜在化、固定化につながりかねない。

② 仮に立法するにしても、量刑は、罰金等軽度なものにならざるを得ず、差別行為に対する抑止力としては疑問がある。

③ 告訴、起訴等によって、差別者が刑事手続の対象となれば、司法権尊重の立場等から、その間、人権擁護機関として啓発は抑制せざるを得ず、また、不起訴に終った場合あるいは刑の執行が終った場合は、免責感あるいは瞳罪済みの感覚を与え、有効な啓発の実施が困難となる。

④ 結婚や就職に際しての差別行為を処罰することについては、憲法上保障されている婚姻、営業等の自由との整合性が確保されねばならない。結婚差別については、それを直接処罰することは、相手方に対して意に反する婚姻を強制することにもなりかねず、憲法に抵触する疑いも強いと考えられる。また、就職差別を直接処罰することについては、現行労働法体系は、企業に対して採用時における契約の自由を認めており、求職者の採否は、企業がその者の全人格を総合的に判断して決めるものなので、採用拒否が同和関係者に対する差別だけによるものと断定して法を適用することは、極めて困難と考えられる。

⑤ 差別投書、落書き、差別発言等は、現刑法の名誉殿損で十分対処することができる。対処することができないもの、例えば、特定の者を対象としない単なる悪罵、放言までを一般的に規制する合理的理由はない。特に悪質なものを規制するとしても、その線引きを明確にすることは著しく困難である。

⑥ 立法上必要とされる「部落」、「同和地区」、「差別」等の用語については、行政法規において定義することは可能であると考えられるが、刑事法規に必要とされる厳密な定義を行うことは難しく、明確な構成要件を組み立てることは極めて困難である。

5、同対審答申の今日的意義

 昭和四十一年の同対審答申は、同和問題の解決に向けての基本的な考え方を明確にするとともに、同和地区に関して講ずべき総合的な方策をはじめて示したものであり、その後の同和問題に対する国及び地方公共団体の積極的な対応を促したことについては、十分評価されるべきものである。反面、この答申を現在においても絶対視して、その一言一句にこだわる硬直的な傾向がみられる。

 同和問題の現状や同和地区の実態は、本報告書で述べたように、同対審答申当時とは、かなり異なったものとなっており、この答申については、改めて二十年余という時の光に照らしてその意義を認識していく必要がある。

 今日、同対審答申を尊重するというのは、そこに書かれた言葉をそのまま現在においても実現しようということではない。同対審答申の根本にある同和問題の解決のために、国、地方公共団体、国民が積極的に努力しなければならないという精神をしっかり受け止めた上で、答申の具体的な内容については、同和問題や同和地区の現実の動きに即して、その妥当性を見直し、現実の動きに即した行政を展開することこそが真に同対審答申を尊重するということである。

 そこに、同対審答申の今日的意義がある。

(付論)

 確認・糾弾行為及び差別行為の法規制問題に関する討議において、部会の委員間で異なった意見が出されたので付記する。

 民間運動団体の行き過ぎた確認・糾弾行為には、弊害があるという点においては、部会全委員の一致した見解であったが、確認・糾弾行為を抑制するための方策に関しては、意見が分かれた。

(多数意見)

 多数意見は、本報告書本文の記述のとおりであるが、その要点を再述すれば次のとおりである。

 差別事件の処理は、現行の人権擁護機関、司法機関等の公的機関による中立公正な処理にゆだねられるべきであり、民間運動団体は糾弾というような行き過ぎた行為を是正すべきである。また、差別行為をなくすことは、差別意識の解消を促進するための啓発の充実によって達成すべきであり、特別な立法による差別行為に対する規制は適当ではない。

(少数意見)

① 民間運動団体の行き過ぎた行為を抑制するため、現行の制度や機関のほかに、民間運動団体の確認・糾弾行為に代わり得る、差別事件に関する公的な調停制度や機関を設置すべきであり、また、法規制についても、さらに検討すべきであるという意見が一人の委員から出された。

② 確認・糾弾行為の廃絶を図るためには、同和関係者あるいは、同和関係者集団に対する侮辱を処罰する特別侮辱罪及び就職差別についての救済命令制度を創設すべきであるという意見が一人の委員から出された。